捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「里花、蒸し返して悪いが、おまえの夫・郷地京太は愛人と別れる気はないんだな」
「はい……」
「出て行けと言われたんだろう。住まいは俺が用意するから、離婚に向けて動く形でいいな」

私は言葉に詰まり、それからゆっくりと首を左右に振った。

「なぜですか? 離婚した方がいいですよ!」

沙織さんが言い、功輔さんも口を挟む。

「離婚できないご事情があるんですか?」

私は頷き、顔をあげた。

「向こうの親御さんは宮成の血を引いた孫がほしいそうです。私との結婚の決め手はそこだったのだと思います」
「宮成家は元華族。日本国内でも有数の名家だからな。三栖も江戸時代までさかのぼれば、宮成家のお抱え商人だ。郷地物産は所謂成金の小金持ち。上流階級の集う社交の場に出入りできる家柄じゃない」

奏士さんがコーヒーを片手に注釈する。

「里花を迎え入れることで、ハイクラス層に参入したいのだろう。後継者を宮成の血筋の子にすれば完璧」
「それじゃ里花さんは道具じゃないですか!」

沙織さんが憤慨した声音で言い、功輔さんにつつかれはっとした顔をする。

「ごめんなさい、里花さん」
「いいんです。事実ですから。子どもの頃から私は家の繋がりのために嫁ぐのだと思ってきました」

ただ、夫となった人がこれほど私の人間性を無視できる人だとは思わなかったのだ。
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