捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「里花」

その呼び方は昔と変わらないのに、なぜか私は空気が変わるのを感じた。真っ直ぐな視線が私を射貫く。

「それなら、俺が里花を奪ってしまってもなんの問題もないな」
「え?」

理解ができず、思わず間の抜けた声をあげてしまった。奪う? それは何を?

「里花を郷地京太から奪う。その男におまえを任せておけない。向こうが興味がないなら、俺が奪ってもいいはずだ」
「ま、待ってください、奏士さん」
「里花が離婚できない理由は、郷地家の事情ばかりだ。これほど馬鹿にされて、相手の家の主張を酌んでやる必要はない。これ以上里花が惨めな想いをするのは、俺が嫌だ」

奏士さんは本気の目だ。功輔さんに確認するように言う。

「父と兄のスケジュールを調べてくれ。早急に相談し、郷地物産との取引を全面的に停止する。里花にこんな苦痛を強いている連中と付き合う利点はない。父も兄貴も、里花の状況を聞けば簡単に切り捨てるだろう」
「奏士さん!」

私は慌てた声で彼を呼んだ。奏士さんがものすごく怒っていることだけは伝わってくる。だけどこんなことは駄目だ。

「宮成家と郷地家の問題です。三栖グループが関与してはいけません。奏士さんの優しさでそんなことは……!」
「私情を挟んで何が悪いんだ? 俺は里花を傷つけ続けた連中を許せそうもない」

奏士さんは厳しい口調で言った。冷たいくらいの目は静かな怒りに満ちている。
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