捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「行こう」
「え?」
「ここはもう閉まる。里花をひとりにはしておけない」

奏士さんの真剣な瞳と、久しぶりに感じる他人の温度に、感情がぐちゃぐちゃにかき乱された。気づけば、私はぼろぼろと泣きだしていた。泣いたらいけない。彼はきっと変に思うだろう。だけど止められない。

「おいで」

奏士さんは私の肩を支える。それは人妻に対する最低限の距離感を保った触れ方だった。

「奏士さん、私……」
「落ち着いて話せるところに行こう。俺のオフィスが近くにある。女性スタッフもいるし安心だから」

私は頷き、奏士さんに支えられるままラウンジを出た。




夫は私に出て行けと言った。

結婚して半年、一度も触れ合ったことのない夫は、私を嫌っている。
そんな虚しく情けない事情を、私は優しい幼馴染に話してしまっていいのだろうか。

この温度に甘えてしまっていいのだろうか。

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