捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
奏士さんのオフィスを後にし、帰宅すると、やはり京太はいなかった。月曜の朝だ、出社したのだろう。
ダイニングテーブルに酒瓶やデリの惣菜が散らかっていた。つまり京太は他の愛人女性のところには行かずに、ここでひとり苛立たしい夜を過ごしたことになる。私の外泊は確実に知られているということだ。
私は手早くゴミを片付け、掃除と洗濯をし、自室のシングルベッドに横たわった。
思い浮かぶのは夫の顔ではなく奏士さんだった。こんなに不安で心許ないのに、奏士さんを思うと胸を温かな感情が満たす。
渡米していた奏士さんと三年ぶりの再会を果たしたのは先月のことだった。
夫に連れられて行ったパーティー会場でだ。
京太は表向き、明朗な愛妻家を気取っているようで、こうした場に新婚の妻を連れていくのは当然とばかりに、私にハイブランドのドレスを買い与え準備させた。
だけど、私は最初からパーティーに乗り気ではなかった。見せびらかされに行くのだ。“愛妻”の振りをしなければならないのだ。
そして、この日身に着けているドレスの色違いを、彼が愛人に買い与えていることも知っていた。家にドレスを届けたのは例の摩耶という女性で、わざわざ親切にも教えてくれた。
夫もこの女性もどうかしていると思いながら、浮気黙認生活が三ヶ月以上になっていた私は、文句を言うでもなくドレスを受け取った。
会場では、明るく振る舞う夫の横で無理やり作った笑顔を貼り付け続けた。これは仕事、いい妻という役割の仕事。自分に言い聞かせて虚しさを紛らわせていた。
そんな時だ。
『里花?』
一際華やいだ輪の中から男性がひとり抜け出し、声をかけてきたのだ。夫の横にいる私にわざわざ向かってくる。
それが三年以上ぶりに会う奏士さんだった。