捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「奏士さん、お招きありがとうございます。新しい会社……先日のお伺いさせていただいた場所ですね。由朗からどういったお仕事か少しだけ聞きました」
「由朗にはたくさん手伝ってもらうつもりだよ。……里花、でも今日はそうじゃないんだ。その後大丈夫か?」

私は困惑して微笑む。言い訳はどれほど効果があるだろうか。

「先日はお見苦しいところをお見せしました。夫とはきちんと話し合いを持っています。奏士さんにご心配いただくようなことは金輪際ないようにしますので」

あの日、奏士さんのオフィスを立ち去ってから真剣に考えた。
奏士さんは幼馴染の情で私を助けてくれるつもりだろう。そして、彼の力なら……三栖グループの力なら郷地物産に圧力をかけることは簡単なことだ。だけど、私は奏士さんにそこまでのことをさせたくない。

私は現時点離婚するつもりはない。
京太のことも義両親のことも嫌悪しているけれど、私は私で簡単に離婚には踏み切れない。もし踏み切るとしても、奏士さんと三栖家に迷惑はかけたくないのだ。

「里花」
「奏士さん、本当にありがとうございます」

あの日、行き場のなくなった私は、初恋の人に甘えてしまった。それ自体は、私の弱った心に滋養を与えてくれた。
だけど、やはり私の境遇については話すべきではなかったのだ。

すると、奏士さんが私の頬にてのひらを押し当てた。
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