捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

「泣きそうな顔でそんなことを言われて、俺はどうしたらいい？」

泣きそうな……そんなつもりはない。だけど……。

「私は大丈夫ですよ」
「つらいのも苦しいのも我慢しなくていい。里花は人間性を踏みにじられているんだ。悲しいのは当たり前だ」

気づけば私の頬には滝のような涙が流れていた。
駄目だ、ごまかしようもない。しゃくりあげる私を奏士さんは抱き締めようとしてやめた。両肩に手を置き、真摯な瞳で見つめてくる。

「里花をあの男から奪う。俺は本気だ」
「奏士さん、いけません。あなたを巻き込むつもりはないんです」
「おまえが幸せになれる相手なら引く。だけど、あの男じゃ駄目だ。譲る気はない。子ども目当てに、おまえがあの男に何かされたらと思うと気が気じゃない」

兄の気持ちなのだろう。強い口調で言う奏士さんを見つめ、私は一生懸命笑顔を作った。

「何か行動を起こすなら、自分の力で起こします。夫の目を覚まさせられるか、関係を構築し直せるかはわかりません。だけど、今は離婚しません」
「実家を頼らないのは、ご両親と由朗に知られたくないんだろう。家族に心配をかけたくないせいだろう」

図星を突かれ、私はうつむいた。先日の口止めで察したのだろう。