捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
その晩、京太はかなり早く帰宅した。まだ日は落ちきっていないので、窓の外は明るい。もうじき夏至だ。

「なんだ?」

京太は苛立たしそうに言い、私を見つめて仁王立ちの姿勢だ。座ってゆっくり話す気もないらしい。私は勇気を振り絞って口を開く。

「摩耶さん……部下の女性が妊娠したと聞きました」
「ああ……。うちの親から聞いたのか」
「はい」

そこでしばし沈黙が流れた。私は顔をあげ、カーディガンを脱いだ。下はノースリーブのワンピースだ。

「お義父さんとお義母さんに、私も早急に妊娠するようにと言われました」
「あの親はろくなことを言わないな」

逆らえないくせに、裏では強いことを言う京太。この人が、私とは結婚しない、好きな人と結婚すると言い張ってくれれば、私たちはこんなことになっていなかったのに。
だけど、この状況を今日変える。
私にできる努力をしてみせる。

「京太さん、私を好いていないことは知っています。ですが、お互いのために……子どもを作りませんか?」

私は思い切って口にした。たとえ、子どもも私も、京太は顧みないかもしれない。だけど、私はたったひとりじゃなくなる。
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