捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
卵のフィリングたっぷり入ったサンドイッチだ。

「美味しい」

口にしてみてわかった。私の身体はちゃんとごはんを美味しいと感じられる。まだ心は死んでいない。

「里花が子どもの頃を思いだした」
「え?」

奏士さんがふふと笑う。

「里花の家のお手伝いさんがおやつにサンドイッチを作ってくれたとき。里花はイチゴジャムのサンドイッチが食べたかったんだけど、出てきたのが卵サンドで泣いちゃってさ。俺が『美味しいから食べよう』って一生懸命誘って、一緒に食べたんだ」
「奏士さん、それ私がいくつのときですか?」

まったく覚えていない。私と奏士さんには五つの年齢差があるのだ。

「里花が五つくらいの話。でも、そのとき卵サンド食べて、里花は好きになったんだよ。あとから、里花のお母さんに聞いた。あれから朝ごはんは卵サンドになったって」
「恥ずかしいです」

私が覚えていない思い出を奏士さんが覚えているなんて。

「でもよかった。やっと里花さんの顔色がよくなったもの」

沙織さんに言われ、自分がどれほどひどい様子で歩いていたかと思って、ぞっとした。きっと幽鬼のような生気のない顔をしていただろう。

「里花、話を聞かせてくれるか?」

奏士さんの言葉に促される。ここまで来て言い淀むことはもうできない。私は奏士さんを求めてしまったのだ。それ自体は人妻としてあってはならないことだけれど、奏士さんに会いたい気持ちを止められなくなってしまった。
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