捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「上に部屋を取ってある。そこで話そう」
「え?」
私の疑問の声を無視して、京太は大股で歩き出す。エントランスを横切りエレベーターホールへ向かう。
「京太さん? お話なら、別な場所で」
「里花は俺と離婚したいんだろう。話をすぐに済ませてやりたいのは俺も同じ気持ちだ。頼む、ついてきてくれないか?」
京太は依然焦ったような口調だった。額は汗ばみ、視線はせわしなくあちらこちらをさまよう。
確かに妻との離婚の話し合いを取引先の人間などには見られたくないだろう。彼は郷地の跡取りなのだ。
離婚に前向きな様子を見せてくれてはいる。ここは信頼して、素直に従うことにした。
エレベーターで移動し、入ったのはツインルーム。
なんとなくおかしいという違和感はこのとき感じた。知り合いに会って急いで部屋を取ったということ自体が妙ではあったけれど、ツインルームに言い知れぬ不快感を覚えた。
ここはアーバンコンチネンタルホテル。土曜の午後に、思い立って部屋が取れるだろうか?
見られたくないにしても、部屋を取る手間より他のホテルのラウンジなどに移動した方が早い気がする。
「京太さん?」
室内に入り、思わず不安で夫の顔を見た。