捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで

ドアがけたたましく叩かれる音が聞こえ始めた。

「里花！」

廊下から切羽詰まった声が聞こえてくる。

「郷地京太！　ここを開けろ！　里花を返せ！」

奏士さんの声だ。京太も私も激しく叩かれるドアを見つめた。そのときには京太の手はすでに緩んでいた。
観念したのか京太が私の上から退いた。のろのろとドアに向かい鍵を開ける。
すると、奏士さんと功輔さんが飛び込んできた。

「里花！」

奏士さんが駆け寄ってきて、いまだベッドの上の私を抱き寄せた。誰憚ることなく、力強く。私も安堵からつい彼の腕の中に飛び込んでしまった。

「奏士さん！」
「郷地京太！　おまえ！」

奏士さんがすぐに顔をあげ、怒りの形相で京太を睨みつける。今にもとびかからんばかりの彼に、私は咄嗟にすがりついた。

「奏士さん、大丈夫！　何もされてないから！」
「離すんだ、里花。おまえが庇う必要はない！」

そこに開け放たれたドアから人影が飛び込んできた。京太の前に立ち、庇うように両手を広げたのは摩耶というあの女性だ。

「申し訳ありません、奥様！　どうか、お許しください！」

あの高慢な彼女とは思えない。必死の様子で、京太を背中に庇う。

「摩耶、おまえどうしてここに……」

京太はいっそう驚いた様子で、恋人を自分の方に振り向かせた。

「どうしても、黙って見ていられなくて……。やっぱりこんなことはいけません」
「だって、おまえは……」
「京太さん、ごめんなさい。お腹の子は諦めます」

そう言って摩耶さんは泣き崩れた。京太も泣きそうな顔をしてその場にへたり込んだ。