捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「いいんです、お金は。あちらの弁護士さんから聞きましたけど、京太さん、郷地物産を辞めて摩耶さんのご実家のある富山へ行くそうです。あの人、我儘なお坊ちゃんだからきっとこの先お金に苦労すると思います。今あるものを大事に使ってもらわないと、産まれてくる赤ちゃんが可哀想」
「里花さん大甘。甘すぎ」

沙織さんがぶーっとふくれて見せる。
そこに奏士さんと功輔さんがやってくるのが見えた。近くの駐車場に車を停めて歩いてきたのだろう。仕事が片付き次第、合流するとは言われていた。

「里花、沙織。あまり日向にいると熱中症になるぞ」

奏士さんが私の顔を覗き込む。そのまま私の手を掴み、顔の高さに持ち上げるとソフトクリームをぱくっと口にした。

「溶けて垂れそうになってた。許してくれよ?」

口元を拭って笑う奏士さん。そんな姿に胸が高鳴った。
私と彼の間に障害はもうない。なにひとつないのだ。
恋をしてもいい。キスをしてもいい。
約三ヶ月経てば、結婚することも可能だ。
そんな自由が清々しく、同じくらい不安で足場が揺らぐのを感じた。

「奏士社長、里花さん、俺と沙織は実家に行く用事があるので」
「あとはおふたりで~」

功輔さんと沙織さんはそう言って去っていった。最初からこうして私と奏士さんをふたりきりにするつもりだったのだろう。
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