捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「どこかでお茶にしようか」

奏士さんに言われ、ソフトクリームを食べ終わった私は答える。

「身体が冷えてしまったので、もう少し散歩したいです」

海岸線の道、木陰になっているところを選んで歩いた。風が髪を乱す。この長い髪も少し切ろう。心機一転、いろんなことを変えていこう。

「子どもの頃さ、いつのパーティーだったか忘れちゃったけど、里花と由朗と三人で抜け出したの覚えてる?」
「抜け出した……何歳頃のことですか?」
「確かお台場のホテルだったよ。どこかな。今はもう名前が変わってるかもしれない。俺は小学校高学年くらいで、里花と由朗は幼稚園の年長とか年中とかそのくらいだったと思う。パーティーに飽きて、中庭からこっそり海まで来たんだよ。三人で夜の海を眺めて、由朗が暗くて怖いって泣いてさ」

私はなんとなくそのことを覚えている気がした。はっきりしない思い出だけど、奏士さんが由朗をおぶって歩いていた映像だけが脳裏にある。

「奏士さんは私と由朗にキャンディをくれましたね。由朗はそれで泣き止んで」
「そうそう。里花は今みたいに静かに東京湾を眺めてた。『そうちゃん、人魚っているのかな』って聞くから、俺は真面目に『いないよ』って答えた。そうしたら、言うんだ。『よかった。それじゃあ、王子様と結婚できなくて泡になっちゃった女の子はいないんだね』って」
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