不条理なわたしたち
「いえ、ノンアルコールのもので」

でも今はお酒は飲めない。

「あれ?調子悪い?」

一杯目は必ずお酒を頼む私を不思議に思ったらしい。

「違います。もう悪酔いしたくないんです」

そう言うと説得力が抜群だったようで、成る程と頷いてくれた。

「葵ちゃん、ご飯は食べた?」

「いえ、職場からすぐに来ましたから」

「葵ちゃんの好きなそばめし作ろうか?」

「じゃあ……お願いします」

突然の妊娠発覚といつ来るか分からない蓮水さんに緊張で食欲は湧かないけれど断れなかった。

「マスター、二ヶ月前はすいませんでした!」

私はテーブルにおでこを擦り付けて、今更だが謝った。

「顔を上げて。そんな気にしないで。あぁいうお客さんは葵ちゃんだけじゃないからね」

マスターがそう言ってくれてゆっくりと顔を上げた。
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