不条理なわたしたち
「それはありがとうって言った方が良い?」

「寧ろ私の目を潤わせてくれてありがとうございます!眼福!」

力んで返すとまたクスクス笑った。

揺れる喉仏、益々セクシー。

「酔っ払うと葵ちゃんは面白いことを言うね」

彼はこのバーの常連さんの蓮水さん。
彼と知り合ったのは勿論このバーだ。
隼斗君に初めて連れられてきた時に飲み友達だと紹介された。
ちなみに隼斗君は私が交際している彼氏だ。

蓮水さんはいつも一人で来て、お店のお客さんかマスターと会話してお酒を楽しんでいる。
蓮水さんとは私と隼斗君と三人でお酒も何度か飲んだ。

私の七つ上だから今年度で三十一歳。
今年度と言ったのは、何月生まれか知らないから。
下の名前は聞く機会もなかったから分からない。

それ以上は私は何も知らない。
何処に住んでいるとか、どこで働いているとか、携帯番号とか、何も知らない。


「そんな酔ってる君を初めて見たよ」

でもそんな知り合い程度の私の横の椅子を引いて静かに座ってくれた。

近付いたことで彼の香水を感じた。
彼にぴったりのベルガモットの爽やかな香り。
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