不条理なわたしたち
「う、嘘……」

そう溢した直後、蓮水さんのせいで動けなくなる。

私の背中に回していた蓮水さんの手が、耳を隠していた私の髪を長い指で掬い上げると私の耳に掛け、柔和な笑みを携えながら私の髪を優しく撫で始めた。
ゆっくり触れるからこそばゆくて逃げたいのに、一つ一つの仕草が艶っぽくて目が釘付けになった。


「嘘じゃないよ。あれから俺は本当に君からの連絡をずっと待ってた。あのバーにほぼ毎日通う程に」

確かにマスターも言っていた。
蓮水さんはほぼ毎日来ているって。

あれは私にもう一度会うためだったんて。

「バーのマスターに葵ちゃんが来たら連絡して欲しいって頼んでおいたんだ。マスターから連絡が来て、だから仕事を切り上げて急いでバーまで駆け付けた」

確かに店に訪れて三十分以内に現れた。

だがそれでも信じきれない。

だって、


「蓮水さん、格好良いじゃないですか!私なんかじゃなくても!」
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