不条理なわたしたち
「……服を着替えに来ただけですよ」

「一緒に住むことは了承して欲しい。それに君の家より俺の家の方が君の職場には近いはずだよね?妊婦の君を満員電車に乗せたくない」

以前職場があのバーの近くだと話したのを覚えていたようだ。

「考えたくはないが、君が堕ろそうと考えているなら時間は限られている。俺にチャンスと時間を欲しい」


私達はお互いを何も知らない。

今ですら私の部屋を見て世界の違いに呆然としていたくらいだ。

蓮水さんは赤ちゃんを堕ろすことを認めてくれなかった。

蓮水さんと時間を共有すれば、価値観の違いに気付いて、赤ちゃんのために責任を取ろうとする考えを撤回してくれるかもしれない。

それに職場は蓮水さんのマンションから通った方が近い。


「分かりました、蓮水さんの家に行きます」

私が漸く首を縦に振ると、蓮水さんは安堵したのか息を吐いた。
< 59 / 120 >

この作品をシェア

pagetop