不条理なわたしたち
私は堕胎の話を切り出せなかった。
蓮水さんが居るからそんな事を訊きたいとは思ってもらえなくて、何も情報を得られなかった。

次回は四週間後に通院のようだ。
蓮水さんは次回も付いてくるらしい。
私が勝手に堕胎すると言わないか、心配なのだろう。

その後、保健所に行って母子手帳を貰った。
ここでも蓮水さんは迷わず父親欄に自分の名前を記入した。


「葵ちゃん、疲れたよね。お昼に行こうか。食べたい物はある?」

保健所を出るといつの間にかお昼の時間で、蓮水さんが提案してくれた。

「な、何でも良いです」

「じゃあ和食にしようか。丁度この辺りにお勧めのお店があるんだ」

私は居心地が悪くて、地面を見ながら歩く。

「葵ちゃん、体調悪い?悪阻?」

「な、何でもないです、大丈夫です」

私は取り繕うと、蓮水さんは「それなら良いけど」と返した。

非常に落ち着かない。
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