不条理なわたしたち
「ねぇ……」

突然目の前が陰ると両頬を掴まれた。

反射的に前を見ると、蓮水さんのドアップ。

心臓は突然の至近距離に否応なしに速度が上がる。

「なんで葵ちゃんは俺がダメなの?教えて」

目の前で色気を大量に放出してくる蓮水さんに私の目は泳ぐ。

「な、何がダメって……」

「ダメなところ、直せるなら直すから」

道を歩けば、思わず振り返ってしまう程魅力的な大人の男性。

そんな人目を引く格好良い人が、どこにでもいる平凡な私に屈伏したように眉を下げて情けない顔をしてこんなことを言うなんて。

そんな姿に鼓動が変に速くなる。

「ダメな所よりも……順序が、おかしいじゃないですか……。私は貴方に、恋愛感情がありませんから……」

真っ直ぐに伝えられたからだろうか、拒否することを躊躇い、伏し目になって呟いた。
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