不条理なわたしたち
成る程、赤ちゃんの心配をしていたわけね。
その時、脇に入れていた体温計がピピピッと鳴った。

「ほら、大丈夫ですから」

三六度六分の表示を見るとやっと静かになってくれた。

「ごめん、過敏になりすぎたかも」

謝った蓮水さんの耳が少し赤かった。
その反応が可愛く思えて、クスッと笑ってしまった。
すると蓮水さんは気を取り直そうとしたのか、コホンと小さい咳払いを入れた。

「話っていうのはね、俺、君に出産を強要しているようにみえるよね」

眉を下げた蓮水さんの言葉に私は意表を突かれ、言葉が出ない。

困惑した私を見た蓮水さんは切なげに顔を歪めた。

「今日は赤ちゃんのお店に無理矢理連れてってごめん。でも俺は強要したいわけじゃない。君も俺と同じ気持ちになって欲しいだけ」

それは先程の愛され方から身に染みて感じた。
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