奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
満彦の父親らしい気持ちとは逆に、梨音の方がその条件に魅入られてしまった。
何時間でも大きな音でピアノが弾けるし、間野家にあるのはグランドピアノだ。
「私、頑張ります。やらせて下さい!」
小さなピアニストは、大人の考えていた以上にやる気に溢れていた。
それからの梨音の生活は、音楽漬けピアノ漬けに一変した。
小学校からの帰り、電車で間野家に向かう。電車の中でさっと宿題。
夜8時頃までピアノを弾いて、間野家まで迎えに来た父と家に帰る。
夕食を食べてお風呂に入ったら、あとは眠るだけ。
土日も朝から夕方まで間野家でピアノを弾いていた。
敦子は間野家の広い庭の一角に、ピアノのレッスン室を建てていた。
梨音の他にも何人か才能を見出した子たちがいたので、そのために建てたのだ。
メンバーの中で毎日のようにレッスン室に練習に通うのは、家庭の事情がある梨音だけだ。
敦子が忙しい時は高名な音楽大学の教授を間野家に招いて、全員にレッスンを受けさせていた。
その教授は厳しいことで有名な人だったから、敦子が才能を認めているとはいえ何人かが脱落していったくらいだ。
梨音は学校の帰りに間野家に通い続け、厳しい教授の指導にも喰いついていく。
敦子は益々、梨音をピアニストとして育てようと熱中していった。
梨音が中学生になっても、そんな日々がひたすら続くのだった。