奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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幼い頃から、梨音はいつも指を動かしている。
家でも学校でも、電車の中でも。
指の動きがよくなるから基礎練習のエチュードを早く終わらせることができるし、一分でも長く曲を弾くことができるからだ。
効率よく練習する方法を、いつも梨音は考えていた。
(間野家の援助を受けられてよかった)
最初にピアノを始めたのは梨音が3歳になった時だった。
母から『女の子ならピアノのお稽古もしなくちゃね』とピアノを始めさせられた。
担当になったピアノ教師の水戸恭子はとても優しかった。
先生に褒められた時、梨音は有頂天になってしまった。
それというのも、幼い頃から母にあまり褒められたことがなかったのだ。
『上手に弾けたね』と言われるのが嬉しくて、梨音はピアノに夢中になった。
退屈なエチュードも指を動かすために必要な練習だ。
まだ手が小さくて、先生の様には動かない。
それでも、梨音は指を動かす。手を大きく開く。指を高く上げる。
何度も何度も、無心で繰り返す。
そんなある日、ふいに声をかけられた。
「君、春名さんでしょ?」