奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
ピアノの練習に訪れた間野家の通用門をくぐったら、年上のお兄さんが立っていた。
「はい、春名梨音です」
見た事も無いような、キレイな男の人だ。
黒い詰襟の学生服を着ていても、スッキリとしていて凛々しく感じる。
『王子さまだ!』
梨音には、その人が物語にでてくる王子さまに見えた。
「レッスン大変だね、大丈夫?」
「ダイジョブです……」
恥ずかしくて、どもってしまった。
「頑張ってね」
「は、はい!」
お兄さんはお屋敷の方に歩いていった。
あとから、背の高いお兄さんはきっと間野家の息子さんだろうと気が付いた。
梨音は緊張して上手に話せなかったのがすごく悲しかった。
(ステキで、優しそうなお兄さん)
その人の名前は『奏』だと、レッスン仲間に教えてもらった。
(奏さん)
彼は梨音の憧れの人になった。
ハードな暮らしが続いたが、梨音から一度でも『辛い』という言葉はなかった。
コンクールなどは敦子に勧められたら参加していて、賞をとるたびに梨音の実力は広まっていった。