奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
始まりのノクターン
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毎日のように梨音のピアノの音を聞く事になった奏は、最初のうちは『どうせ直ぐに根を上げるだろう』と思っていた。
小さな身体で、ランドセルとレッスンバッグだけを持って通ってくる子。
間野家の裏手にある通用口から、毎日のようにレッスン室に入りひたすらピアノを弾いている子。
防音室とはいえ、近くに行くと心地よい音が聞こえてくる。
梨音のピアノ演奏を聞くのが奏の密かな楽しみになっていた。
ある日、庭でサッカーボールを蹴ってリフティングの練習をしていたら門の方に転がってしまった。
拾いに行ったら、丁度通用口が開いて女の子が入って来た。
「君、春名さんでしょ?」
小さい女の子は真っ赤な顔をしていた。
(こんな小さい子が、もう将来を決めているのか)
迷いもなく真っ直ぐにピアニストになる夢に向かっている子。
奏には眩しいように思えた。
その時の奏は『頑張って』としか掛ける言葉が見つからなかった。