奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
その大声に驚いたのか、高校生たちは暗がりへ逃げるように散って行った。
「か、奏さん」
「どうしてこんな時間にひとりで歩いてるんだ! 親父さんの迎えは?」
思わず梨音に詰め寄った。
「父は仕事です」
梨音は俯いたまま奏の方を見ようとはしないので、無性に腹がたってきた。
「乗って」
「え?」
車の助手席側のドアを開けて、奏は梨音に声を掛けた。
「送るから」
「ええっ! そんな、いいです。電車で帰れます」
梨音が後ずさりするのが見えると、ますます奏も意地になっていた。
「いいから、乗って!」
奏は無理やり遠慮する彼女の腕を引っ張って助手席に押し込んだ。
(これじゃ、あの高校生と変わらないじゃないか)
そう思いながらも、奏は自分の車の助手席に彼女が座っている事実に満足感を覚えていた。
不思議な感覚だった。
(ここは、梨音が座るべき場所だ)
自分の隣にいるのは梨音だと、奏は確信していた。