奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
奏の気持ちは、この日に固まったのかもしれない。
「梨音、これからは俺が家まで送るから」
「そんな、大学が忙しいのに」
梨音は遠慮がちに断ろうとしてきた。
「これは、俺の仕事だ。音楽家を目指す君に何かあっては困る。君を守るのが俺の仕事だ」
「奏さん………」
梨音からの返事は沈黙だった。
車の中はシンとしていて、軽いエンジン音だけが聞こえる。
気になった奏が梨音を横目で見ると、声も出さずにポロポロと涙を流していた。
「泣くなよ」
「そんふうに言われたことがないから、嬉しくて」
梨音の白い頬に流れる一筋の涙の糸が、奏の目にはキラキラと光って見えた。
(梨音はこんなふうに、ひとりでそっと泣く子だったのか)
もう梨音を泣かせないと、奏は密かに誓った。