奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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梨音は、誰よりも奏が大好きだ。
交際を周りに隠しているのは残念だったが、それも梨音の将来を考えてくれてのことだ。
奏が自分を大切にしてくれていると信じているし、梨音の才能を認めてくれていて幸せな毎日だった。
梨音は、高校生になると意外な才能を発揮し始めていた。
ピアノの演奏ではそれなりの成果を残していたが、作曲にも目覚めたのだ。
最初はアルバイト感覚で短いフレーズの作曲をしただけだった。
ドラマやゲームで使われる短いメロディーをいくつも作っていくうちに、自分でも不思議なくらい楽しくなったのだ。
国内のコンペティションで認められるようになると作曲の依頼もくるようになり、頼まれるままに様々な曲を手掛けるようになっていった。
高校二年の夏休み、梨音が作曲コンクールに応募したピアノ曲が最優秀賞を受賞した。
ずっと梨音にピアノを指導してくれている、普段は厳しい大学教授がとても喜んでくれた。
「梨音くん、自分で曲の演奏をしてはどうだい?」
梨音自身が授賞式でその曲を演奏するように勧めてくれたのだ。
「そんな大きなステージで?」
「君なら大丈夫だよ。私からも推薦しておこう」
やがて授賞式の日、梨音は華やかなステージに立ってスポットライトを浴びて演奏した。
客席から奏が梨音を見つめてくれていると思うと、演奏に情感がこもる。
(奏さんのために弾こう)
梨音の心には、もう彼しか存在しないのだ。