奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
コンサートホールの客席からステージの梨音を見つめながら、奏は彼女を独占しているのは自分だという喜びで一杯だった。
(梨音は俺の恋人だ)
梨音の受賞はまだ高校生ったことからマスコミでも話題になった。
『間野敦子が見出した才能』『美人ピアニスト間野敦子の愛弟子』と、敦子と梨音はセットで雑誌のグラビアに何度も取り上げられるほどだった。
奏は、ふたりの交際を打ち明けるならこのタイミングがベストだと思った。
最近の母は塞ぎがちだったが、雑誌に記事がいくつも掲載されたから機嫌がよくなると思ったのだ。
「梨音、今度の賞が母さんに話すきっかけになるかもしれない」
梨音にも心の準備をしてもらおうと、自分の考えを打ち明けた。
「ホントに?」
「今までふたりの交際を隠してきたけど、梨音の才能が認められたんだ。母さんに付き合っているって伝えよう。きっと喜んでくれるさ」
奏の言葉に、梨音の表情はパッと明るくなった。
彼女も秘密で付き合っていることがきがかりだったのだろう。
「嬉しい!敦子先生に黙っているのは辛かったの」
「ごめんな。家の中がガタガタしてたから、母さんの機嫌がずっと悪かったんだ」
「ううん、気にしないで」
梨音が賞を取ったから『自分が育てた子だ』と母が自慢に思うはずだ。
そうなればふたりの交際を隠す必要はないから、奏は将来を見据えてオープンにしようと考えていた。
だが現実は大きく違って、奏の思うようには運ばなかった。
母はなにを考えているのか『梨音が作曲の道に進むのなら援助を打ち切る』と言い出したのだ。
「私が育てたいのは、ピアニストなの。作曲家じゃないわ」
奏は冷たく言い切る母が自分の親だとは信じられなかった。
あんなに情熱をかけて10年も育てた梨音を、あっさり切り捨てるというのだ。