奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~



***


父の四十九日がすんだ。
父が倒れたという連絡をもらった日から、梨音の世界には音楽がない。

公営住宅の狭い部屋に閉じこもり、梨音はぼんやりと過ごした。
学校へ行く気力が湧かないし、今日が何月何日かも分からない。

父が勤めていた工事現場の人たちが葬式などの手配をしてくれたので、梨音はただ座っているだけだ。
遠い親戚に連絡を取り、先祖の墓に入れてもらえる手配もしてもらった。

(お父さんのために、なにもできなかった)

音楽ばかりに夢中になって、世間のことはなにも知らなかった自分に腹が立つ。
父の体調に気が付かなかったし、家のこともお金のこともわからないのが情けなくて、生きているのさえ辛かった。

奏が心配して何度も訪ねて来てくれたが、梨音は彼に会わなかった。
間野家からの援助は打ち切られた今となっては、もう奏と会ってはいけないと思ったのだ。

(これ以上、奏さんに迷惑を掛けてはいけない)

父が命がけで梨音のために働いてくれたというのに、援助を切られてしまって申し訳なかった。
今の梨音には美しいメロディーは微塵も浮かんでこないのだ。

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