奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
梨音は狭い六畳間にポツンと座っていた。
「梨音、いるんだろ?」
奏の声が聞こえた気がした。
ザーザーとノイズの混ざった雑音のような変な音だ。
(遠くでかすかにコンコンと聞こえるのはノックの音?)
ぼんやりとした頭では、なんの音なのかよく聞き取れない。
「梨音! 頼むから顔を見せてくれ!」
今度はもう少しはっきりと、奏の声が聞こえたような気がした。
「梨音! 開けないとドアを壊すぞ!」
ガンガンと酷い音が聞こえた気がする。
梨音は畳から立ち上がり、のろのろと玄関に向かって歩いた。
玄関ドアの内鍵を開けたいのだが、手が震える。
「梨音!」
ドアを開けると、狭い玄関に奏が叫びながら飛び込んできた。
強く強く、苦しいくらい抱きしめられた。
「か……な……」
「梨音! 俺だ、奏だ!」
梨音の口からは、擦れた声しか出なかった。
恋しい人の名前が呼べないことがショックだった。そして、梨音は奏の腕の中で気を失った。