奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


梨音は狭い六畳間にポツンと座っていた。

「梨音、いるんだろ?」

奏の声が聞こえた気がした。
ザーザーとノイズの混ざった雑音のような変な音だ。

(遠くでかすかにコンコンと聞こえるのはノックの音?)

ぼんやりとした頭では、なんの音なのかよく聞き取れない。

「梨音! 頼むから顔を見せてくれ!」

今度はもう少しはっきりと、奏の声が聞こえたような気がした。

「梨音! 開けないとドアを壊すぞ!」

ガンガンと酷い音が聞こえた気がする。
梨音は畳から立ち上がり、のろのろと玄関に向かって歩いた。

玄関ドアの内鍵を開けたいのだが、手が震える。

「梨音!」

ドアを開けると、狭い玄関に奏が叫びながら飛び込んできた。
強く強く、苦しいくらい抱きしめられた。

「か……な……」
「梨音! 俺だ、奏だ!」

梨音の口からは、擦れた声しか出なかった。
恋しい人の名前が呼べないことがショックだった。そして、梨音は奏の腕の中で気を失った。

< 26 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop