奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
梨音の意識が戻ったのは、病院のベッドの上だった。
看護師の話では、まる一日も眠っていたそうだ。
脱水症でかなり衰弱していたらしく、気がついたという知らせで飛んできた奏に酷く叱られた。
「なんでこんな無茶をするんだ!」
「ごめんなさい」
弱々しい声だったが、なんとかしゃべることができた。
「ああ、やっと声がでたな。心配してたんだ、梨音」
奏が必死で呼びかけてくれたから、梨音は現実に戻ることができたのだ。
「約束したじゃないか、梨音を守るって」
「奏さん」
梨音を見つめている奏も、げっそりやつれていた。
「お前は、ずっと俺の側にいればいいんだ」
「でも、私はもう間野家と関係がないはずだし」
奏がそっと横たわる梨音の手を取ると、指を絡めてきた。
「梨音、君の才能への援助は間野家じゃない、俺がする」
「えっ!」
「母にも宣言したんだ。あの人が打ち切るって言うなら、俺が梨音の才能を伸ばすって」
「そんな……」
突然の奏の申し入れに梨音は驚いた。それでは、奏が母親に逆らう事になる。
「そんなことをしたら、敦子先生との仲が拗れてしまうよ」
奏が端正な顔を歪めてくしゃりと笑った。
「お前、俺をいくつだと思ってるんだ。」
「私の8つ上だけど」
「もう、20過ぎた社会人だ」
自信満々で奏が宣言するが、梨音はまだ心配でたまらない。
「今度、銀行から父さんの会社に移ることにした」
「間野コーポレーションに移る?」
奏の仕事については梨音には理解できないから、それがなにを意味するのかわからない。