奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「俺と一緒に住もう」
「奏さんと……住む?」
どういうことかと、同じ言葉を繰り返してしまった。
「マンションを用意した」
「ええっ!」
もう奏の話は、梨音の想像を超えてしまっている。
「親父の許可を得て、祖父さんから相続した物件を活用しただけさ。親父には梨音と暮らすって話している」
ベッドに横になっているのに、梨音の頭の中はクラクラしてきた。
「急すぎて、どうしていいかわからない」
「前から決めてたことが少し早くなっただけだ」
一緒に暮らすような話をしたことがあったかと、梨音は記憶を辿るが思い出せない。
奏がこんなに強引な人だったとは、初めて知った。
「まっ、待ってください」
「梨音が大学生になったら、一緒に暮らそうと思っていたんだ」
「奏さん」
「君のためだけじゃない、俺のために、そばにいて欲しい」
奏が梨音の手を握る力が少し強くなってきた。
「梨音を守るのは自分の仕事。いつだったか、約束したじゃないか。」
「うん」
梨音は涙が滲んでくるのを感じていた。
確かに、もっと幼い頃に奏から言われていた言葉だ。
彼はずっとそう思っていてくれたんだと知って、嬉しくてたまらなくなってくる。
「泣いていいんだ、梨音。大声で泣けばいい」
「うん……」
「俺がずっとそばにいるから、泣け。思いっきり」
梨音は、ようやく声を上げて泣いた。
幼い頃から泣き声をこらえることばかりだったが、この日は枕を涙でぐしょぐしょに濡らすほど泣いた。
そして泣きつかれて眠ってしまったのだが、そばにはずっと奏が寄り添っていた。