奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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梨音の体調はすぐに回復した。
奏は梨音が退院する日に迎えに行くと、そのままマンションへ連れ帰った。
「このマンションだ」
この建物全部が、奏が祖父から相続していたものだ。
高層の豪華なマンションで、ちゃんと一階にはコンシェルジュもいる。
「高橋さん、お話していた春名梨音です」
奏が梨音を紹介すると、優しそうな雰囲気の紺色の制服を着たコンシェルジュが微笑んだ。
「春名様ですね、どうぞよろしくお願いいたします。何でも私どもにお申し付けください」
梨音はマンションの雰囲気に圧倒されて緊張していたが、なんとか会釈する。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「さ、部屋へ行くぞ」
「はい」
奏は梨音の体調を気遣いながら促した。
ふたりがエレベーターホールに向かうのを、高橋は温かく見つめていた。
(可愛いいカップルだこと。お似合いね)
奏からは音楽の勉強をしていると聞いていたが、華奢な梨音の遠慮がちな微笑みが印象に残っていた。
普段の無表情な奏からは想像もできない優しい目にも驚いた。
(きっと、ものすごく大切な方なんだわ)
まだ幼さの残る梨音のために、高橋はできるだけ力になろうと思った。