奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
そして、ふたりだけの生活が始まった。
平日は奏は会社へ、梨音は学校に行く。
家事は主に梨音が受け持つが、大学の入学試験が近いから暫くは手抜きだ。
帰宅したら、防音工事をした部屋で梨音はレッスンしたり曲を書いたりする。
奏は書斎で仕事だ。
奏の仕事が忙しい時期には、梨音と同じ家に住んでいてもすれ違う日もある。
週末になると、ふたりでまったりとした時間を過ごした。
手を繋いで眠り、一緒に散歩に出かけ、夕食の買い物を楽しむ。
梨音の手料理を食べて、また手を繋いで眠る。
三月に梨音は大学の合格通知を手にし、高校を卒業した。
四月には音楽大学の作曲科の入学式を迎え、大学生になった。
おままごとのような暮らしが続いたが、ふたりは満足していた。
やがて梨音が成人する頃、やっとふたりは結ばれた。
幼い頃から大切にしてきた梨音が自分の腕の中にいる幸せに、奏は酔った。
(羽根の脆い蝶々をやっと手にいれた)
奏はその蝶々に触れながら、嬉しさを噛みしめる。
我を忘れて傷つけてはいけない。
そっと、彼女に触れた。その初々しい反応を楽しみながら。
誰にも渡したくない宝物のように、そっと、自分の印を刻みながら。
(彼女のそばにいるのは俺ひとりだ)
これまでも、これからも、梨音は俺しか頼らず俺しか見ない。
奏はそんな愛に満足していた。