奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
突然のラプソディ
ふたりが暮らしているマンションに、思いがけない人物が入居してくることになった。奏の義弟の京太だ。
大阪の大学を卒業した京太は、間野コーポレーションに就職した。
間野家に住むのを嫌がったため、このマンションの空いていた部屋に入居することになったのだ。
奏の部屋より数階下だが、独身の京太ひとりが住むなら十分な広さがある。
「梨音。京太がこのマンションの下の階の部屋に引っ越してくる」
奏は気が進まないが、梨音にも伝えておくことにした。
「京太さん?」
「一度くらいは会っておくか?」
「奏さんの弟さんでしょ?」
「義理だがな。梨音はあまり関わらなくていいから」
「わかりました。でも、奏さんはそれでいいの?」
奏は母ともあれから会っていなかったし、父にも梨音を紹介してはいなかった。
奏は間野家の人間と梨音が関わらせたくなかったのだ。
「いいんだ。俺たちは関係ない話だから」
奏は梨音に大学で学ぶだけではなく、もっと才能を伸ばすための手助けがしたかった。
有名な作曲家に作品を見てもらう機会も作った。
(穏やかなふたりだけの暮らしがこのまま続けばいい)
本音を言えば、音楽家としての成功よりそちらの方が望ましい。
梨音の世界では『奏』が一番であって欲しいのだ。