奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
明日はバレンタインという日の夕方、梨音が留守番していると玄関のチャイムがけたたましく鳴った。
「どちら様ですか…?」
インターフォンに出てみたら、男性の弱々しい声が聞こえた。
『僕です。京太です』
「京太さん?」
慌てて梨音が玄関のドアを開けると、京太がマフラーで顔を隠す様に立っていた。
「こんばんは。どうなさったんですか?」
「ゴメン、急に来てしまって」
「あの、奏さんは出張なんです。今夜遅くにならないと帰りませんが」
恐る恐る梨音が声をかけた。
「チョッと体調が悪くて……体温計とかありませんか?」
「お熱ですか?」
「風邪かなあ」
ひとり暮らしの京太が気の毒に思えた梨音は、彼を部屋に上げてしまった。
「すぐに体温計持ってきますね、ソファーに座っててください」
「ごめんね」
ぐったりと京太はソファーに座り込んだ。少し顔も赤く見えるので、熱が高いのかもしれない。
「水分も補給しなくちゃ」
キッチンの食品庫を見たが、あと一本しかスポーツドリンクがなかった。
体温計を京太に渡して、梨音は小ぶりのポシェット肩にかけた。
「京太さん、お熱計ってじっとしてて下さいね。水分とかお買い物行ってきます」