奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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深夜に帰宅した奏は、かなり疲れていた。
このところ外資系の会社との取り引きがあって、難しい交渉が続いていたのだ。
梨音とバレンタインを過ごしたくて無理をしていたから、一刻も早く身体を休めたい気持ちでいっぱいだ。
「お帰りなさい、奏さん」
「まだ起きてたのか、梨音」
ぎゅっと梨音を抱きしめると、緊張の連続でガチガチだった全身から力が抜けていく。
「お疲れ様でした」
「このままじっとしててくれ」
梨音の存在だけが奏を癒してくれるのだ。
「あのね、奏さん」
「お帰り、義兄さん」
梨音の声を遮るように京太の声がして、思いがけない義弟の姿が視界に入ってきた。
「京太、どうして……」
こんな時間にここにいるのかと言いかけたら、京太の姿が不自然だ。
シャワーを浴びたばかりなのか、髪が濡れているし上半身は裸だ。
「どういうことだ?」
「あ、あのね……」
梨音が話そうとしかけたが、京太の方が先に口を開いた。
「あ~あ、ばれちゃったねえ」
生意気にも感じられる、ぞんざいな物言いに奏は驚いた。
京太は養子になってから、自分に対してこんな態度を見せたことがなかったのだ。
「京太さん、体調はもういいの?」
か細い声で梨音が京太に尋ねている。どういうことなのか、ますます奏は混乱する。
「そんなウソつかなくていいよ」
「え?」
京太は奏に向かって、不敵な顔でニヤリと笑った。
「ゴメン、義兄さん。僕たち、そういう関係なんだ」
奏は絶句した。何を言い出したかと思えば、梨音と『そういう関係』だと告白しているのだ。