奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
チョッピリ梨音がむくれた顔をする。
彼女がスランプでメロディーが浮かばなくなったのを見かねて、奏は気分転換に料理教室に通うことを勧めたのだ。
お陰で梨音の料理の腕は上がり、レパートリーも増えた。依頼されていた曲も無事完成した。
だが、奏は嬉しい悲鳴を上げている。
梨音の作る食事は美味しいが、食べ過ぎないように気をつけなければいけないのだ。
30近い彼は梨音に隠れてスポーツジムに通う回数を増やした。
8歳の年の差を感じさせないように、彼なりに多少は気を遣っているのだ。
「大学の授業と作曲と家事じゃ、大変だろう。ムリしてないか?」
「一緒に暮らしてるんだもの、家の事もキチンとやりたいの」
「家政婦、頼もうか?」
また奏が梨音を甘やかそうとする。
「もう、奏さん過保護すぎるよ。甘すぎて、今に私溶けちゃう」
「それは困るな、梨音を抱けなくなるじゃないか。」
「やだ……」
梨音の頬は真っ赤に染まった。奏にはそんな純情な姿も愛おしい。
落ち着いたインテリアのリビングを通り、書斎にカバンを置く。
梨音はまた調理を再開させてようだ。トントンとリズムよく包丁の音が聞こえる。
マンションのシックな雰囲気の中で、キッチンだけは梨音の好きな柔らかなクリーム色が使われていた。
彼女らしさが生かされた安らぐ色合いだ。
奏は、この時間が好きだ。
鼻歌を歌いながら料理している梨音に「一緒に入るか?」と声をかけて冷かしながらバスルームに向かう。
ただ愛しい恋人と戯れる。この時間があるからこそ、奏は仕事に没頭出来るのだ。