奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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「奏さん……」
梨音は、そのまま床にしゃがみ込んだ。もう立っている気力すら残っていない。
涙は出なかった。
この短時間で自分の身に起こったことの衝撃が強すぎて、頭の芯がズキズキ痛む。
ただ奏の声だけが、何度も全身に響いていた。
『二度と、俺の前に顔を見せるな!』
「どうしてこんなことに……」
座り込んだまま動けない梨音の耳に、あっけらかんとした京太の声が聞こえてきた。
「恋ってコワイねえ~」
その場にまだ残っていた京太は、ひとり言のようにしゃべりだした。
「恋は盲目って言うけど、ホントだったんだ!」
その態度が憎らしくて、梨音がは京太を睨んだ。
「どうして、こんな酷いことをしたの?」
あまり交流のなかった京太が突然こんな暴挙にでた理由を聞かずにはいられなかった。
「ゴメンねえ~梨音ちゃん。僕だって悪いとは思ったんだけど、こうでもしないと僕自身の自由が取り戻せないんだ」
京太は口が軽かったようで、思いがけない事実を話し続ける。
「恨むなら、敦子さんを恨んでね。あの人が僕に指示したんだから」
「ええっ!」
「あんたが邪魔なんだろ。ひとり息子を奪った小娘に嫉妬したのさ。おまけに美人で才能があるから憎くて仕方なかったんだろうな」
「ま、まさか」
恩師だと思っていた奏の母がこんなことを京太にさせるなんて、信じられない。
「敦子先生がそんなことするわけないわ!」