奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
(あの頃は、オムライスかお子様ランチを食べたっけ)
無性に懐かしくてたまらなくなった梨音は、迷わず『オムライス』を注文した。
やがて運ばれてきた温かいオムライスのケチャップの赤が目に染みる。
(いただきます)
心の中で呟いてから、スプーンでひと口ぶんだけすくって食べた。
あの頃と変わらない味にスプーンが止まらなくなり、食べながら涙をポロポロと流した。
「あんた、どうしたんだい?」
厨房から出てきた中年の女性にも見覚えがあった。少し年を重ねたようだが、ふくよかなスタイルは変わっていない。
「ごめんなさい。あまりに懐かしくて」
「おや、昔馴染のお客さんかい?」
大柄なその人は、泣きながら食べている梨音に気さくに話しかけてくれた。
「久しぶりなんです。小さい頃、父とよく食べにきてました」
「あらあら、嬉しいね~。大人になっても店にきてくれるなんて」
底抜けに明るい笑顔を向けられて、梨音はまた涙が溢れてしまった。