奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
話しているうちに、その女性が店の女将さんだとわかった。
「亭主が亡くなってからアタシがこの店の主でね、小暮章子っていうんだ」
「あ、私は春名梨音といいます」
午後3時が過ぎて下町の食堂としては暇な時間帯だったのか、章子は梨音の話を上手に聞き出していく。
おおらかな性格なのか、屈託なくニコニコと話しかけられると梨音にも安心感が湧いてきた。
初対面だというのに、昨夜からの信じられない出来事を話してしまったくらいだ。
梨音はまだ信じられなくて、誰かに悪い夢を見ただけだと否定してもらいたかった。
「それじゃあんた、恋人の義弟に騙されたうえに、恋人から追い出されたってことかい?」
話を聞いた章子の方が怒りで顔が真っ赤になるくらい興奮しているようだ。
「は、はい」
章子の様子を見て、梨音は夢ではなく現実なんだと思い知らされた。
「義弟の噓なんだろ。仲直りはできないのかねえ~」
「ムリだと思います。『二度と顔を見せるな』って言われたので」
奏の性格はよくわかっているつもりだ。一度口にしたことを簡単に取り消すような人ではない。
「なんとまあ」