奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「私のこと、信じてくれなかったのが辛くて」
梨音の目から、また新しい涙が溢れてくる。
ふたりの話が聞こえたのか、調理場からコーヒーを持ってエプロン姿の男性が現れた。
「母さん、そんな真っ赤な顔して……血圧が上がるよ。気持ちが落ち着くからコーヒーでも飲んで」
どうやら女主人の息子らしい。母親とは真逆のほっそりと華奢な男性だ。
「あ、気が利くねえ。梨音ちゃん、息子の敏弘だよ」
「いらっしゃい。コーヒーは僕のサービス」
敏弘はニッコリ笑うと章子の隣に腰掛けた。
コーヒーカップを三人分用意していたから、章子と一緒に梨音の話を聞く気が満々らしい。
「敏弘はコーヒー好きでさ、コックよりバリなんとかを目指してたんだ」
「母さん、バリスタだよ」
「そう、それ。勤めていたカフェを辞めてこの食堂に帰ってきてくれてね、喫茶のメニューも始めたのさ」
梨音はひとくちコーヒーを口にした。
「美味しい! ホントに美味しいです!」