奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
カランカランとドアベルが鳴って、『日暮亭』のドアが大きく開いた。
「ただいま~」
「パパ、ばあちゃん、ただいまで~す」
若い女性と小さな子どもが飛び込んで来た。
「お帰り~すばる、もも!」
章子が大きな声で名前を呼ぶと、子どもたちは駆け寄ってくる。
「梨音ちゃん、嫁の奈美と、孫の昴とももだよ」
金色に近い明るい茶色の髪をした奈美は3歳くらいの男の子の手を引き、お腹の前には抱っこ紐にすっぽり包まれた可愛い赤ちゃんを抱えていた。
「こんにちは」
奈美の顔を見たとたん、章子が大きく頷いてから梨音に話しかけてきた。
「うちは働き手の嫁が子育て中でねえ、手が足りないんだ。よかったら、うちで働くかい? ここの二階は従業員用の部屋になっているから住み込みもオーケーだよ」
「いいんですか!」
いきなりの提案だったが、今夜はどこで泊まろうかと悩んでいた梨音には嬉しい話だ。
「もちろんだよ。酷い男のことなんか忘れて、ここにいればいいよ」
敏弘は頷いているが、帰宅したばかりの奈美は怪訝な顔だ。
「ありがとうございます! 一生懸命働きます!」
奈美にも事情を話すと、すぐに住み込みで働くことを認めてくれた。
若夫婦は章子のおせっかいな行動には慣れているらしく『いつものことだから』と快く賛成してくれたのだ。
偶然のめぐり合いから、梨音は『日暮亭』で働くことになった。
「うちは、その日暮らしの『日暮亭』さ。こっちも助かるんだ。気兼ねしなくてもいいからね」