奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
夫を亡くしてからひとりで頑張ってきた章子とバリスタを目指していた敏弘とでは、店の経営について意見が合わない点が色々とあるようだった。
奈美も気になっていたようだが、嫁の立場としては口を出せずに困っていたらしい。
そんな時に梨音が加わったことで、少しずつだが、店のイメージチェンジが始まった。
梨音はあちこちのフレンチやイタリアンの店の味を知っているからと味見をさせられるし、若い女性の好みを知りたいからと意見を求められるのだ。
「沢山あり過ぎるメニューを整理してはいかがでしょう」
「例えば?」
「メインをオムライスとビーフシチューにしぼって、オムライスは章子さんの昔懐かしいきっちり卵で巻いたのと、敏弘さんのフワフワを選べるようにしたら楽しそう」
こんな風に、三人で話していると次々とイメージが膨らんでいくし、時には梨音の思い出話に敏弘が反応した。
「私、子供の頃にこちらで食べたお子様ランチ大好きでした。大人ランチもあるといいですね」
「常連さんからもよく言われるんだ。あの味が忘れられないって」
「きっとご年配の方は、量はたくさん食べられないからでしょうね。おひとりでの注文ではコスパが悪いのなら、お子さんとかお孫さんと一緒に来店されていたらお子さまランチOKにしてもいいのでは?」
そんな風に章子と敏弘が梨音のアイデアを喜んで取り入れてくれた結果、少しずつ変化していく『日暮亭』は商店街でも人気の店になっていった。