奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
エントランスホールでは、コンシェルジュの高橋が穏やかな表情で出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、間野様」
「ああ、高橋さん」
「お久しぶりでございます」
奏は『久しぶり』と言われた理由を、弁解がましいかと思ったが仕事のせいにした。
「ちょっと、出張でロスにいたので」
「さようでございましたか。私も研修でしばらくここを離れておりましたので、心配しておりました。京太様、体調は良くなられましたか?」
「は?」
「私が研修で留守の間にお引越しをなさったのでご挨拶できなくて」
高橋の言葉に奏は戸惑った。
「いつでしたかしら? そうそう、バレンタインより前でした。春名様が、京太さんの体調が悪いからとおっしゃって、夜にお買い物に出て行かれましたので気になっておりました」
奏は高橋の言葉を聞いて、衝撃を受けた。
「高橋さん、それは本当ですか?」
「はい。夜勤の者に何かあったらお手伝いするように申し送りをしましたので、よく覚えております」
「そういえば春名様をお見かけしませんが、海外にでも……」
「ありがとう」
高橋の言葉を遮って条件反射で礼を言うと、急いで最上階の自室に戻った。