奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
どこか落ち着かない様子の家政婦をソファーに座らせる。
「大変なものをお部屋で見つけまして、慌てて飛んで参りました」
家政婦はあたふたとバッグの中から紙切れを取り出した。
奏の位置からは、しわくちゃな細長い紙切れにしか見えない。
大変なものとはどういうことかと訝しんでいたら、家政婦が話を続けた。
「これが寝室のベッドの下に転がっておりまして。ゴミかと思って、念のため開いたら、あの、」
家政婦が狼狽えるのも頷けた。結構な金額の小切手だったのだ。
しかも、母の名前でサインがしてある。
「わ、私は、いっさい知りません。お部屋にあったものを見つけただけで」
家政婦は金額を見て動転したのだろう。慌てて奏に報告しに来てくれたのだ。
奏の頭の中で、バラバラだったピースがカチッとはまる音がした。
「わざわざ、ありがとう。感謝する。このこと、母には内緒にして欲しい」
「は、はい。わかりました」
最悪の結果だが、奏はやっと心が鎮まるのを感じていた。