奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
梨音は小さい頃から近くの音楽教室に通ってピアノを習っていた。
たまたま梨音のレッスンを担当したピアノ教師が、敦子の音大時代の後輩の水戸恭子だ。
水戸は受け持ってすぐに梨音の才能に気が付いた。
とにかく音感がいいし、レッスンが楽しくてたまらない様子に見えた。
まずピアノが好きでなければ、厳しい練習に耐えられないだろう。
敦子が才能のある子を探していると知った水戸は、梨音こそぴったりだと思った。
そして敦子が審査委員長を務めるコンクールに参加させたのだ。
コンクールの日、梨音は淡いピンクのワンピースを着て髪には白いレースのリボンを結んでもらっていた。
そして黒いエナメルの靴を履いて、お姫様のようだった。
コンクールというものはまだよくわからない年齢だったのだろう。
普通なら緊張してしまうところだが、梨音は違った。
広いホールのステージでグランドピアノを前にするだけで嬉しそうだったし、気持ちよさそうにピアノを弾いていた。
小さな手を思いっきり広げ、腕を蝶々のよう精一杯に動かして『エリーゼのために』を演奏した。
その愛らしい姿と情緒溢れる演奏が奏の母の目に留まり、初めての出場だったが審査員奨励賞を受賞したのだ。
たまたま会場に来ていた奏の記憶にも梨音の姿は強く残った。
(まだ小さいのになんて子だ)
奏から見ても、キラキラと輝いているような女の子だった。
このコンクールが、梨音と奏を結ぶきっかけになった。