奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「梨音ちゃん、私のお古で悪いけど夏物だよ」
奈美が大きめの紙袋を手渡してくれた。
そろそろ暑くなってきたから必要だろうと、サイズが合わなくなった服を梨音のために持ってきてくれたのだ。
「いつもありがとう、奈美さん」
「こっちこそ、子供たち見てくれるし、お店は繁盛するし大助かりだもん」
屈託なく笑う奈美の笑顔のおかげで、梨音も遠慮なく受け取れる。
「それに……」
こっそり、奈美が梨音の耳に口元を寄せてきた。
「お義母さんと上手くいくのも、梨音ちゃんが間に入ってくれるからだよ」
悪戯っぽく笑っているが、これが奈美の本音らしい。
「奈美さんったら」
思わず梨音も苦笑した。
「あ、こんなのも必要かな? 新品だから良かったら使ってね」
真新しいサニタリーショーツも紙袋の中には入っていたようだ。
「すみません、気を遣っていただいて……」
そう言いかけて、ふと梨音は頭の中が真っ白になった。
ストレスのせいだと思っていたのだが、この二か月ほど生理がいつあったか記憶がおぼろげだ。
太ったとは思えないが、下腹部に思わず手をあてる。
(赤ちゃん?)
梨音の表情が固まったのを、奈美は見逃さなかった。
「梨音ちゃん、もしかして?」
「……ないかも」
ポツンと梨音がこぼした言葉を聞いたとたん奈美は目を見開いた。
「チョッと昴のこと見ててね!」
それだけ言うと、奈美は店から走り出てしまった。