奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「だって、そうだろう! こんな素直な子の言うことを信じなかったんだよ!」
「まあ、クズだよねえ」
章子と奈美は言いたい放題だ。
梨音から話を聞いている小暮家の家族は、奏にいい感情を持ってはいない。
ただひとり冷静だった敏弘が口を挟んだ。
「母さん、奈美、その男のことはどうだっていいよ」
敏弘は優しい声で梨音に尋ねてくる。
「梨音ちゃん、もちろん生むんだろ?」
「はい」
梨音は迷うことなく返事をして、力強く頷いた。
「り、梨音ちゃん……」
さっきまでプンプンに怒っていた章子がほろりと泣きそうな顔をする。
「すみません、章子さん。ご迷惑ばっかりおかけしてしまって」
「いや、それは構わないんだよ」
頭を下げる梨音に、章子は慌てた。
「私ひとりで産んで、ひとりで育てます。父が残してくれた貯金もあるし、何とか頑張ります」
「もう決めたんだね」
「どうかギリギリまでこちらで働かせてください。お願いします!」
梨音は三人に向かって深々と頭を下げた。