奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「よし! そうと決まったら産婦人科に行こう!」
奈美が元気いっぱいに叫んだ。
「え、これから?」
奈美は梨音の手を取ると歩き出す。
「当たり前じゃん、キチンと確認しなくちゃ」
「そうだね。店のことはいいから、産科の先生に診てもらいなさい」
気持を切りかえるのも早い章子と奈美は、急に張り切り出した。
敏弘はデリケートなことには口を出さない主義らしい。
ふたりの様子を見て呆れた顔をすると、大人しく仕込みに戻っていった。
「章子さん、ご迷惑おかけしてすみません」
「なに言ってるの。あんたはひとりじゃないよ。あたしらの家族だ。この店だって梨音ちゃんのお陰で繁盛してるんだし、こんな時くらい力にならせておくれ」
「ありがとうございます」
章子の言葉を聞いて、梨音は嬉し涙が溢れてきた。
「それに今どき、シングルなんとかは珍しくないだろ?」
「うん。昴の幼稚園にだって、ももが入る予定の保育園にだってシングルマザーが大勢いるよ」
「奈美さん……」