奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
ふたりは少しでも梨音の気持ちが落ち着くように、気を遣ってくれているのだ。
梨音はまた涙がこぼれてきて困ってしまった。
その日のうちに奈美が案内してくれたのは、商店街から少し離れた住宅街の中にある産院だ。
小さいが入院設備もある病院で、優しそうなおばあちゃん先生だった。
「おめでとうございます。赤ちゃんの心音が確認できました」
丁寧な診察のあと、先生は笑い皺だらけの顔を梨音に向けて優しい声で説明してくれる。
「ホントですか? ホントに私のお腹に赤ちゃんが?」
「ええ、あなたはお母さんになったのよ」
検査薬の判定だけでは安心できなかったが、やっと梨音にも実感が湧いてきた。
「つわりもないから気が付くのが遅かったのかな? もう4か月に入ってますね」
「お腹まだぺったんこなんです」
自分のお腹を触りながら梨音が言うと、先生は微笑んだ。
「もともとほっそりしてるからでしょうけど、これからですよ」
その言葉が梨音の胸にじわじわと沁み込んでいく。無事に赤ちゃんが生まれるまで、気は抜けないのだ。
「元気そうだけど、痩せてるのと血圧が少し高いのが心配です。今日から安静にしましょうね」